Eコマースにおける行動経済学の応用をまとめてみる

これは完全に自分のためのまとめです。

人間は自分の意思ではなく、無意識にそういう行動をすることがあると気づいた時、これを言語化できずにモヤモヤしていたのだけれど、行動経済学という本に出会い少しもやが晴れた。そして、これはビジネスにおいてとても重要で常に意識しておかなければならない事だと感じたので、自分の仕事にどう落とし込めるかを考えてまとめたブログ内容です。

人間の集団的な行動心理

行動経済学が自分の視野に入ってきたのは投資を始めてからです。為替のチャートを毎日チェックするんですが、以前からこの値動きはどうやって決まるんだろう?という基本的な疑問を持っていました。

もちろん教科書的なサイトや本では、需要と供給のバランスや貿易・投資収支、各国の金融政策や景気動向、紛争や自然災害など要因はさまざまであると説明されています。これらの根底にあるのが人間の心理的要因で、チャートは心の揺れ幅なのか?と思っていたら行動経済の本に辿り着きました。

また浅いですが世界の歴史を学んでいて特に思ったのが、時代を経ても人に大きな変化がない部分があると言う事。古代ローマ時代から、縄文時代から現代のこの時まで、普遍的なものがある、それが人間の行動心理的な何かであることは分かったのですが、説明できるほど理解はしていませんでした。

経済行動学とは経済における人々の心の動きを説明したものですが、まさにこの心理が私のぼんやりした思考を言語化したものだったので、非常に面白いなと思いました。そしてすぐに私の仕事に役に立てるにはどのシーンでどういう心理を掴めば売り上げにつながるのか?と言うことを考えました。

人々の心理や行動を100%理解するのは無理ですが、行列に並ぶ人や以上な速さで人気のでるアプリ、同じものを身につける行動を見ていると、そこには間違いなく人々の心を掴む何かがあるのだろうと思います。

押さえておきたい基本的な行動経済学

ある状況において人の取る行動に、わかりやすく名前が付けれられています。これによってその行動を言語化することができ、またその行動はなぜ起こるのかが分かっているので応用ができます。

以下、それぞれの行動心理の説明と応用をセクションに分けて説明しています。私の場合Eコマースですが、店舗や会社、コミュニティや学校等色々な応用ができると思います。それぞれの状況に置き換えて考えると、ああ、なるほど!と腑に落ちるところがあるかもしれません。そしてそれを理解してよくなるように応用できると良いですね。

大前提として人は欲求(欲しい・羨ましい・儲けたいなど)が強く、合理的ではなく直感的な行動を取ったりと、目先の誘惑に弱い生き物です。それぞれの人間が持つ情報や欲求、考えが違うから取引が行われ、価値が見出され経済が動いています。人間が作り出す経済の世界は人間の気持ちが大きく影響します。

マズローの欲求5段説

人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、低層界の欲求が満たされると次の階層の欲求を欲していくという説です。1−5の順に欲求が上がっていきます。

  1. 生理的欲求(食事・睡眠)
  2. 安全欲求(身体の安全・雇用の確保)
  3. 社会的欲求(友情・家族)
  4. 尊厳欲求(自尊心・尊敬)
  5. 自己実現欲求(社会貢献など)

プロスペクト理論

行動経済学のコアとなる理論がプロスペクト理論です。プロスペクト理論とはリスクがある環境下での意思決定の分析を言語化したものです。利益はできるだけ早く確定したいけど、一方損失は先送りしたい、また金額は同じでも得した時より損した時の方が2−3倍重く感じる、という心理のことです。

特に投資の場面ではこの心理が顕著に現れます。株やFXなど利益が出ている場合はそれ以上のリスクを避けるため早い段階で売却しますが、逆に損失が出ている場合はそのうち値上がりするだろうからそれまで待とう、という損失を回避する心理が働き、リスクに対して許容が大きくなり損切りのタイミングを先延ばしにしてしまいがちです。

価値関数(損と儲けの心理の動きを表したグラフ)

こういった投資家の期待や不安などの群集心理(下記項目で説明しています)が下落や上昇、またはバブルに影響しています。

また宝くじやギャンブルのように当たる(勝つ)確率が低いにも関わらず、主観によって過度に高い成功確率を期待してしまう傾向があります。手術の成功率が80%と言われているにも関わらず、不安から過度に成功確率を低く感じてしまうのも同じ心理で、これを決定の重みづけと言います。

人は主観によって小さな確率のものを大きく、大きな確率のものを小さく捉えてしまいがちです。

同じような状況において、今度は説明やアナウンスによって受け手の意思決定が変わってしまうということがあります。例えば”80%の確率で手術は成功します”と言われるのと”この手術による死亡率は20%です。”と言われるのでは前者の方が受け入れやすくなります。また目的地までの所要時間を表示する場合、2時間と書かれているよりも120分と書かれている方がなんとなく短い印象を受けます。他にも有効成分1gより1000mgと記載されている方が多い印象です。これらの言い方や表示、説明によって印象が変わってしまうことをフレーミング効果と言います。

応用

例えば数字をうまく利用して、在庫残り1枚!などというように残り枚数の表示をする、セール終了までの時間を表示する、送料無料までの金額を表示する、など損失を回避する仕掛けはECサイトにすでに盛り込まれていますね。やりすぎないよう気をつけながら、サイトに合うかどうかテストしつつ実装するのが良いでしょう。確率に関してはある程度売筋商品などがわかってきた場合、お客様の90%がリピート!などキャッチコピーに使えます。業種によっても数字を使える幅が変わるかと思います。

行動経済学のコアなのでこの法則は十分に分解して、理解する必要があります。損をするのを嫌うというのが重要なキーワードで、お得感をいかに演出できるかは重要だなと。損をしたく無いがために自分の時間を削ってでも安いスーパーに行く人、損をしたく無いのでわざわざクーポンを使いに行く人、割引をしてほしいがために今必要ないものを買う人、もっともっとここら辺のサンプルを日常的に集めてみることにします。

集団群集心理(ハーディング現象)

一人でいるよりも大勢でいた方が安心感を感じるという心理から、人は群れを成したいという心理的傾向を持っています。タピオカブームのような度々起こるブームもこの群集心理が働いています。有名人の着た服が流行ったり、TVで取り上げられた食品が翌日売り切れたり、毎日のようにこの心理を何かしらで見ることができます。

ブームが作られる場合には特に害はありませんが、この集団心理があるがために引っ張られて間違った判断をしてしまう場合があります。組織などの場合、適切な判断ができずに失敗や問題にならないために組織外の意見を聞くなどの対策が必要な場合もあるでしょう。

応用

群集心理は使い方次第で良い方向にも悪い方向にも働きます。インスタグラムやTIKTOKなどこれらはブームを作る群集心理が大いに利用されています。インフルエンサーをマーケティングで起用するのはまさにこの心理を利用したものですね。しかしながら悪い方向へ動くとその影響は早く、回復には時間がかかるので、雰囲気を掴むのはとても重要だと思います。

損失・リスク回避心理

人は状況が変化するストレスや不安を避けようとする心理から、現状維持を好む傾向があります。(現状維持バイアス)だから慣れ親しんでいる行動をしたり、同じものを購入したりなど、抵抗感のない行動をとりがちです。そして既に持っているものなどを高く評価したがります。

これは割と日常的に自覚のある行動で、レストランで同じメニュー選んだり、同じ洗剤を使い続けたり、同じ国に何度も旅行したりします。馴染みのものであれば間違いなく、あえて新しいものや道を選ぶリスクを犯したくないという心理ですね。皆何かしら心当たりがあるかと思います。

応用

損失回避の心理から、一度手に入れたプラスの価値は減らしたくない、手放してしまうと満足度が低下したり心のマイナス(損失)を感じてしまう”心の慣性の法則”というものがあります。心にも現状維持を続けようとするのです。

この例としてサンプル品をもらうとその満足感を続けようとその商品を購入してしまうということがあります。サービス系アプリも同様、初めは無料でアプリを使えるが、一部有料サービスを使い出すとその満足感を継続するために使い続ける仕組みができるのです。

初頭効果・親近効果

人は子供の頃の経験や環境によってインプットされた情報が人格が形作られるとされています。そして”人は見た目が9割”と言うように第一印象はとても重要で、その人を認知する上で見た目は決定的な要素となります。

このように初めに与えられる情報が判断や意思決定に大きく影響することを初頭効果と言います。悪い情報と良い情報を誰かに伝える場合、どちらの情報を先に伝えるかによって相手の感じ方に大きな違いが生じることもあります。

初頭効果とは逆に、最新の情報や最近の出来事、最近覚えた単語などの方が覚えていたり思い出せたりしますが、情報が古くなるにつれて思い出しにくいと言うことがあります。これは親近効果と言われるものです。

ネットショッピングで次々にサイトに飛んでいたら欲しいものがどんどん更新されていったり、英語の新しい文法を一つ覚えたら初めの方に覚えた文法を忘れていたり、M-1グランプリの1組目のネタ思い出せなかったり、これも色々日常的に起きている効果です。

このように新しく知った情報や学んだ知識など、新しいものの方が記憶に残りやすく、その後の意思決定に影響を与えることがあります。

応用

初頭効果をEコマースで応用した場合、サイトのトップページの重要性が考えられます。サイトのイメージは第一印象としてユーザーにインプットされますし、また親近効果としてはトップページの最新情報を見やすい位置に配置し、記憶にとどめてもらうということも重要です。他にも商品に関連する音楽の効果、イベントやユーザーのライフスタイルに合わせてタイミング良く情報を発信することも重要です。

商品説明において初めにポジティブな説明、ネガティブな文言は後半にする、1枚目の一番最初に目に触れる画像はできるだけ印象に残るものにする、など当たり前の設定を抜かりなくやることが大事ですね。

ナッジ理論

現在注目されている理論で、実際に生活の中で色々なナッジを見かけます。例えばスーパーなどのレジ前で見かけるステップマーク、あれはこの場所に並んでお待ちくださいのマークだなと気がつきます。料金プランで選択肢にデフォルトでチェックマークがある場合、それがスタンダードプランなのだなと気づきます。

このようにナッジとは肘で突つくように、強制的ではなく良い意思決定ができるよう相手を特定の選択肢に促したり、それとなく気づかせるために表示や仕組みを工夫することです。

このナッジ理論は世界で応用されており、社会政策の場面でも取り入れられています。日本では特定健診や特定保健指導にこの理論が活用されており、検診による健康確認と気付きによる改善を促す機会をつくっています。省エネ・省CO2に取り組むために、各家庭に電気やガスの使用料や推移をレポートし、自発的対策を促す仕組みづくりも行われているようです。

Eコマースでは対面で接客できないので、ナッジ理論の活用がとても重要になってくると思います。ユーザーをどう誘導したいのか、何に気づかせたいのか、より満足のいく意思決定をしてもらうために選択肢はどうするべきかを十分に考えなければなりません。

例えば選択肢が多いと決められずに満足度が高くありません(選択のパラドックス)。なのであらかじめ人気のアイテムにランキングをつけておく、だとかカテゴリー分けしてユーザーの選択肢を減らすという工夫もできます。

また人気のある商品の画面上での配置で気づいてもらいやすくする、ユーザーの口コミで人気であることに気づいてもらうメルマガ配信はデフォルトでチェックを入れておく、などもっと色々な利用法がありそうです。

行動経済学を学んでみたまとめ

人間は弱く不合理であり、未来より今を優先し、変化を嫌い、現状維持しようとします。これらの心理や感情が判断にどういった影響を及ぼし、どう行動につながるかを知ることにより、克服するために弱い自分と向き合い、失敗を受け止め、改善することができます。

また個人的なことだけでなく、社会や周りの人の行動や変化を行動経済学の心理をもとに考えることができますし、経済や仕事に生かすこともできます。

私が感じていた人間の昔から変わらない何かはまさにこの人間の本質的行動や思考で、行動経済学はさらに人々の心に踏み込んだ部分を言葉で表しています。なぜ合理的ではない行動をするのか?なぜ目先のことしか考えないのか?なぜ行動しないのか?など説明がつきます。

また自分の行動や思考に対しても現状維持バイアスじゃないか?決定の重みづけで判断を間違えていないか?群集心理思考に流されていないか?など当てはめて改善することができます。

これからの社会は今までよりもより早い変化や多様化が予想されます。個人においてもビジネスにおいても行動経済学を理解していればチャンスを掴むことができるかもしれませんし、変化に備えることができるでしょう。行動と経済なのでもっと難しいと思っていましが、自分に直結しているので学びやすく、理解を深めるべく勉強していきたい分野でした。